幕末文政の頃、
彦根の商人、絹屋半兵衛が当時の最先端技術の華であった
磁器の焼成導入を考えて伊万里の職人を招き、
佐和山山麓に築いた窯で成功させたのがそのそのもはじめである。

国産奨励は諸藩の風潮。

彦根藩は特に強力に援助し
十年にして彦根焼・湖東焼の名は確立された。

天保年間、井伊直亮のとき、召し上げて藩直営に移した。

藩窯は直亮の代八年、直弼の代十年が盛期、
直憲の代二年は終末期で通算二十年の短い歴史にすぎないが
焼成技術は景徳鎮、伊万里に劣らない世界最高の水準、
絵付けにいたっては繊密豪華高尚、湖東焼独特の味を完成した。

磁器の原料石は天草産に少量の彦根物生山の石を混じ、
呉須染付の品はすべて藩の茶碗山の窯で焼き、
赤絵金襴手の類は、素地はすべて藩の窯で焼いたのち
藩の絵付窯で絵付けすることも多かったが
城下町や近在の民家に据えられた錦窯と呼ぶ小さい絵付窯でも焼かれた。
民窯赤絵湖東焼と呼ばれるものである。

このように世代におもむき
地場産業と産業として定着しかけた矢先、
桜田門外の変がおこり世情不安となり
百人近い茶碗山の職人はおびえて四散、
彦根生まれの四人を残すのみで操業不能となって
藩窯は廃止された。

その後、山口窯、長浜湖東、円山湖東など
復興の企画もあったが成功を見るにいたらなかった。

湖東焼は高級美術品として世に聞こえたが彦根藩の政策的意図は、
陶磁器一般市場への進出による産業育成であったから
同じ窯で磁器に並んで陶器も焼いたし土焼窯も築いた。

その製品はまた高火度高級品であったけれども
湖東焼の陶器はこのようなものと言えるほどには成長しなかった。

彦根に生まれた湖東焼。
今日まで百五十年という長い空白期を乗りこえて
湖東焼と言えるほどのものを再興しようという声があがり
県と市と有志の方の援助をいただき昭和六十一年に窯を築き試作を始めました。

青みを帯びた素地、画風とすべてを湖東焼の流れに添わせて
いつの日か平成の湖東焼として誇れる作品を焼き上げようと努力いたしております。

どうかご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。